ECでブランディングは必要か?を経済学的にかんがえてみた

乗組員的EC探査録

はじめに:ブランディングの必要性とは

ブランディングの必要性が謳われて久しい。一般的にブランディングとは自社の商品やサービスに付加価値を創出し、その価値を高めることを意味します。おそらくブランディングの必要性を問われれば、多くのひとは「必要」と答えるでしょう。

しかし「なぜブランディングが必要なのか」と問われたらどう答えますか?

自社のサービスや商品を認知してもらうため、あるいは企業の価値を高めるため、はたまた優秀な人材確保のためなど見解は様々かとおもいます。

この記事ではブランディングの必要性を、ミクロ経済学の「寡占市場」モデルを参照しつつ「価格競争の回避」という観点から捉えてみます。

この「価格競争の回避」という点にこそブランディングの肝があるのです。

寡占市場モデルとプライスメイカーの存在

経済学において寡占市場とは「価格支配力を有した少数企業が存在する市場」と定義します。

たとえば通信キャリア各社やビール会社、宅配便サービスなどは寡占市場の好例です。さらにパソコンのOS(オペレーションシステム)もまた寡占化した市場だといえるでしょう。そもそもミクロ経済学において寡占市場は『不完全競争市場』とよばれる市場モデルのうちのひとつで、その語彙からも見て取れますが『完全競争市場』モデルと対応しています。

寡占市場を考えるにあたっては、いちど「完全競争市場」を介して考えてみると、その特徴がより分かりやすくなるとおもいます。

完全競争市場とは、いささか乱暴な表現ながら端的に述べると「すべての市場参加者がプライステイカー(Price Taker)である」という点に収斂されるでしょう。モノやサービスの価格が「市場の需給で決まり、企業・消費者もその価格に従う」ばあいの企業・消費者を指してプライステイカーと呼びますが、それに対して寡占市場をはじめ『不完全競争市場』では企業(売り手)側が「プライスメイカー(Price Maker)」となります。

プライスメイカーである企業は、価格が「自社の供給量の変化に応じて変動することを知りながら」行動します。

たとえば何らかのサービスを独占的に供給している企業があったとします。そのばあい企業がサービスの供給量を減らすにつれ価格は高騰するように、価格と供給量とは減少関数となります(=独占市場のケース)。おなじく寡占市場の参加企業もまた各社とも「価格支配力を有して」います。

ただし独占市場と異なる点は、寡占市場ではプライスメイカーが複数(少数)存在するために、それぞれ自社の行動の決定にさいしてライバル社の動向がつきまとうことになるのです。

おもえば通信キャリアもビール会社も、つねにライバルの動向を注視しながら自社の戦略を練っている様子が伺えます。ビール会社も各社さまざまな戦略を繰り広げていますが、とりわけ「価格(値上げ・値下げ)」にはシビアな反応をみせており、近年でも原材料費の高騰や輸送コストの上昇を背景にラインナップの値上げを発表しています。
いっぽう通信キャリアでは2019年の楽天モバイルによるMNO(移動体通信事業者)参入を皮切りに、既存キャリア各社もあの手この手で格安プランを打ち立てたことは記憶に新しく、業界内の値下げ競争が加熱したといえるでしょう。

ここでもうひとつ、牛丼チェーン店を例に挙げてみましょう。

牛丼チェーン店もまたつねにライバル社の価格動向に敏感です。執筆時(2024年現在)吉野家の牛丼(並盛り)は税込468円ですが、およそ20年ほど前には280円だったことはご存知の方も多いはずです。ちょうど同時期にすき家は280円、松屋は290円でした(いずれも並盛り)。ただし、もともと1990年代での並盛り価格は各社およそ400円だったのです。しかし2000年に松屋が先導を切って290円への大幅値下げを行なったところ、各社それに続くかたちで値下げを決行しました。

牛丼は私たち庶民の懐事情を反映する食べ物ではありますが、当時のデフレも相まって業界全体が価格競争の渦に突入した時代だったのでした。

ライバル社は自社の値下げに追従する

あらためて寡占市場モデルを取り上げて考えてみます。

多少、学問的な言い回しとなりますが寡占市場において(いち企業の)需要曲線は屈折するという特性があります(=屈折需要曲線)。需要曲線とはタテに価格P、ヨコに供給量Qをとった関数ですが、このグラフが均衡点Eを境に屈折する性質にこそ寡占市場を考えるうえでのポイントがあります。屈折需要曲線に至る細かな過程やその効果はここでは割愛しますが、この屈折する曲線は寡占市場における「価格の硬直性」を示すものであり、以下の前提で成立します。

1)自社が現在より「低価格」をつけた場合にはライバル社はそれに追随する
2)自社が現在より「高価格」をつけた場合にはライバル社はそれに追随しない

このような前提によって、企業の需要曲線は均衡点Eで屈折するように描かれ、限界収入曲線・限界費用曲線もそれに応じた変化をみせるのですが、その具体的な説明もここでは割愛します(ご興味あるかたはミクロ経済学の入門書により詳しく載っているはずです)。

ここで注目したいのは寡占市場においてライバル社は値下げに追従し、値上げには追従しないという前提の部分です。

企業が値下げを行う理由は、ほかでもなくそれによる市場シェアの獲得です。
企業は同質の財(たとえば牛丼)をライバル社よりも安い価格で提供することで需要を伸ばそうとします。しかし先の前提に従ってライバル社は値下げに追従するため、想定よりも需要を伸ばせず苦戦してしまいます。

逆に値上げによって利潤の獲得を目指したばあい、ライバル社は値上げには追従しないため想定よりも需要が減少してしまい、この場合でも苦戦を強いられてしまうのです。寡占市場においてはライバル社の存在によって値下げ・値上げともに想定どおりの需要を見込めず、とりわけ値下げには追従するという性質があるために市場全体が価格競争のスパイラルに陥ってしまうのです。

ブランディングによる価格競争からの脱却

以上から寡占市場において、ライバル社は値下げに追従することがわかりました。
もう勘の鋭いかたはお分かりでしょうがこの局面においてブランディングが重みを増すのです。

度々ですが牛丼チェーン店を例に考えてみますと、経営状況を悪化させるほどの価格競争で戦った各社ですが、その後2015年ごろから原価や人件費の高騰によって価格競争は落ち着きをみせ、各社次第にブランディング戦略へと舵を切りはじめました。

たとえば吉野家はメニュー開発や店舗イメージの刷新によって女性客の取り込みを増やそうとしています。価格は若干割高なものの、その分おいしさにこだわり、値段よりも品質を重視する消費者のニーズに応えようとしているようです。また松屋も多様なメニュー展開で新たな客層の創出につなげようとしています。たとえばジョージア国の伝統料理「シュクメルリ」をモチーフとしたメニューはSNSでも大きな話題となりました。価格面でも他社と比べて安い(400円)にもかかわらずみそ汁がついてきますので、そのお得感が差別化に繋がっているとも考えられます。すき家は郊外への店舗展開や、テーブル席(こども席)を設けることでファミリー層へのアプローチを強めています。

これまで「牛丼イコール男性サラリーマンの食事」というイメージだったものが、各社とも独自のブランディングによる差別化を行うことで「とにかく安い」だけではないバリューを生み出すことに成功しました。いわばブランディングが功を奏し、寡占市場で陥りがちな価格競争からの脱却を図ったといえるでしょう。

裏を返せばブランディングなしでは市場の特性上、いまだ価格競争のなかで戦っていただろうことは想像に難くありません。

もちろん牛丼のみならず、寡占化した市場はいたるところに見受けられます。

楽天などのEC市場においても、とりわけ型番商品は価格競争に陥りやすい商材です。ほかにも、消費者からみて「商品の差異がわかりづらい」もの(たとえばミックスナッツの詰め合わせ/あくまで個人的見解ですが・・・)も、価格で比較されがちな商材だといえます。こうした商品は自社の工夫やこだわり等を差別化のポイントに据えて、消費者に分かりやすく伝えることが重要となります。

たとえどれだけ商品自体に工夫を凝らしていたとしても、そのコンセプトが正しく消費者に伝わっていないならば、それはブランディングの失敗であり、くどいようですが価格競争のなかで戦うほかなくなってしまうのです。

さいごに:ECも価格競争の回避にはブランディングが重要!

いかがでしょうか。寡占市場はあくまで学問上のモデルケースのひとつであって、現実の事象がこのモデル通りの動きを再現するとは限りません。

しかしながらもし自社の商品がなぜか、いつまで経っても価格競争を強いられているならば、それはここで述べたような寡占市場の特性によるものかもしれず、価格競争の回避にはブランディング(ライバル社との差別化)が必要であるという結論へ導くことができるはずです。

そして!私たちのようなECコンサル会社はECにかんする商品・企業のブランディングを生業としています。
ここで述べたような課題に思い当たる節がありましたら、ぜひ私どもコンサルロケッツまでご相談ください。

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