【書評】本谷有希子『江利子と絶対』

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No alarms and no surprises
No alarms and no surprises
No alarms and no surprises
Silent, silent
 
警報が鳴ったり、驚くこともなく
平穏で、安心できる毎日を
誰にも邪魔されず、ずっと
ただ、静かに暮らしたいだけなんだ
 
ーー Radiohead「No Surprises」(日本語は意訳)

  
「絶対」など存在しない。
持論というほどのものではないけれど、ふと、そう感じることがある。
 
たとえば、昨日までそこにあったものが、今日には無くなっているかもしれない。
たとえば、1万円紙幣が、明日にはただの紙切れになっているかもしれない。
たとえば、心から信用していたひとに、いつかズタズタに裏切られてしまうかもしれない。
 
つまり「絶対」とは、いつも「こうあってほしい」という「不確かな確証」に過ぎないのだ。
けれどもぼくらは、それでも「絶対」の確かさを求めてしまう。
 
ぼくが住む東京都という場所は、明日も変わらず地図上にあるし、
1万円もあれば、恋人と美味しい食事を堪能できる。
そして、ぼくの大好きなあのひとは、いつまでもぼくを大切にしてくれる。
 
しかしこのような「絶対」は、つねにその価値を脅かされる。
なぜなら「絶対」とは、いつも個人・共同体の中でのみ完結しているものだからだ。
 
とはいえ「絶対」の確証なしに生きていくには、ぼくらはあまりに不完全である。
 
東京が明日なくなるかもしれない、と恐れながら満員電車に揺られたり、
1万円がただの紙切れになってしまうかもしれない、と不安を抱えながらコツコツ貯蓄したり、
この恋人とはきっとうまくいかないだろう、と感じながらも付き合いはじめたり。
 
もし、こうした不安をいつも抱えているひとがいるとするなら、
きっとそのひとを周囲はビョーキだとおもうだろう。
けれど、ほんのわずかでも「正しさ」という基準が働くならば、
ぼくはそんなひとをこそ「正しいひと」なのだと思いたい。
そんなひとにこそ、ぼくは幸せになってほしいとおもう。
 
ところで「絶対は存在しない」という、ぼくの確証もまた「絶対」とはいえない。
もしかすると、どこかに「絶対」の揺らがない場所があるのかもしれない。
けれどぼくには、それは遠い遠い、別の世界ようにおもえる。
 
お金で買えない価値がある。
買えるものはマスターカードで。
  

  
  

本谷有希子『江利子と絶対』2003年 講談社
 
本谷有希子さんは「劇団 本谷有希子」を主宰する演劇畑出身の小説家です。
とりわけ彼女が得意とするのは「ネジの外れたひと」のエキセントリックな描写。
誤解を恐れずいえば「完全にイッちゃってるひと(とりわけ女性)」を描くのがとてもうまい。
しかし、たんなるへんちくりんな小説に終わらず、やはりそこは劇作家。
ストーリーを貫く軸の硬さや、登場人物たちによる対話の躍動するリズム感に、
劇作家としての実力と、それを小説に昇華できる彼女の多才さを感じることができます。
 
そんな本谷有希子さんの小説家としてのデビュー作『江利子と絶対』。
ぜひぜひ、読書の秋の一冊にいかがですか?
  
冒頭に掲げた曲はRadiohead(レディオヘッド)というイギリスのバンドの曲なのですが、
これがラジオでたまに仕事中に流れることがあって、とてもやる気を削がれる歌詞!この曲もオススメ!
  

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